コレクティブインパクトとは?意義や条件、具体的な事例や生み出す方法
気候変動や紛争、貧困、差別。世界には今も数多くの社会問題が存在します。社会問題は複雑な要因が絡み合って生まれており、解決の糸口を見いだしてもまた新たな問題が見えてきます。
複雑化した社会問題に取り組む上で注目されているのが、複数のプレーヤーが協働することで問題解決へと向かう「コレクティブインパクト」です。この記事では、コレクティブインパクトの意義や条件、具体的な事例について触れながら、コレクティブインパクトを生み出す方法についてご紹介します。
コレクティブインパクトとは?
コレクティブインパクトとは、企業や行政、NPO、市民などさまざまな分野の人々が各領域を越えて協力し、社会問題に取り組むことで生まれる成果を指します。コレクティブインパクトという言葉は、2011年にスタンフォード・ソーシャルイノベーション・レビューにて発表され、世界各地で実践されてきました。その結果、環境問題やヘルスケアの問題などさまざまな社会問題の解決につながっています。
コレクティブインパクトの意義
これまで社会問題解決に向けて、多くの人々が取り組んできました。しかし、一つの組織や個人の活動には限界があります。さまざまな強みをもつ組織や個人が協働することで、新たな視点が加わったり、手段がとれるようになったりすることで、一つの組織では解決しえなかった問題にアプローチすることができます。そうして、より大きな社会問題に取り組み、インパクトを生み出せることがコレクティブインパクトの意義だと言えます。
コレクティブインパクトの5つの条件
コレクティブインパクトを生み出すには、以下の5つの条件を満たす必要があります。
共通のアジェンダ (Common Agenda)
まず、すべての参加者が問題に対する共通の理解と、問題解決への共通のビジョンをもつ必要があります。同じテーマの社会問題に取り組んでいたり、同じ言葉を使用していても、各組織や個人によって捉え方が異なることがあります。
バックグラウンドの異なる者同士が協働するには、捉え方の違いについて議論し、課題に対する共通の認識や変革に対する共通のビジョンをもち、合意の得られた行動をとることが必要です。
評価システムの共有 (Shared Measurement)
コレクティブインパクトを生み出すには、取り組みを評価するシステムを導入し、共有することが必要です。行動の成果を測定し報告することで、全体への学びを共有したり、フィードバックをし合うことで取り組みの改善につなげることができます。
相互の活動の補強 (Mutually Reinforcing Activities)
コレクティブインパクトでは、各領域の人々がそれぞれが強みを活かし、補強しあうことに意義があります。プロジェクトを成功させるには、各々が力を発揮できる包括的な計画を立てることが重要です。
継続的なコミュニケーション (Continuous Communication)
バックグラウンドの異なるメンバーが協働するには、信頼関係を構築することが必要不可欠です。信頼関係を構築し、プロジェクトの改善を促進するには、継続的なコミュニケーションの機会を作っていくことが重要です。
活動を支えるバックボーン組織 (Backbone Organization)
プロジェクトを成功に導くには、各メンバーの活動を把握し、プロジェクト全体を管理するバックボーン組織が必要です。データの収集や報告、コミュニケーションのサポートなどを行います。
コレクティブインパクトの事例
教育 小さな心ダイアリープロジェクト
不登校の問題や精神疾患を抱える子どもの数が増加傾向にあることから、子どものメンタルヘルスが問題視されています。子どもは自分の状態を言語化することが難しく、無意識のうちにストレスをため込んでしまい事態が深刻化するケースが多く見られます。
子どもの心のちょっとした変化に気づけるようになるために始まったのが「小さな心ダイアリー」プロジェクトです。臨床心理士、児童精神科医、スクールカウンセラー、教師、発達支援の専門家など、さまざまな分野のプロフェッショナルが参画し、それぞれの観点を活かしながら、子どもの心の変化に気づくためのダイアリーを開発しています。
クラウドファンディングを活用して資金調達を行いながら、リターン一を利用して一般の人もダイアリーの開発に参加できる仕組みをつくり、多くの人を巻き込みながら問題解決に取り組んでいます。
貧困問題 アフリカシアバター×ビジネスレザーファクトリー
ブルキナファソでテロの影響を受けた女性の雇用創出のために立ち上がった事業「アフリカシアバター」は化粧品の原料となるシア脂の仕入れ・製造販売を行っています。
アフリカシアバターは雇用創出を拡大するために、バングラデシュの貧困層に雇用を創出する革製品事業「ビジネスレザーファクトリー」オリジナルのレザーケア商品を、創業明治43年の日本最古の靴クリームメーカー”ライオン靴クリーム本舗”と共同開発しています。一般的なレザーケア製品に使用される石油オイルや化学製品は一切使用せず、すべて天然成分にこだわり、エシカルかつサステナブルな商品開発を通して、貧困問題解決に取り組んでいます。
地方創生 ふるさと納税forGood!
ふるさと納税は、利用者やポータルサイトが増加する一方で、返礼品競争が加熱し「ふるさとや地域を応援する」という本来の趣旨が希薄になっているといった課題も指摘されています。一方で、ふるさと納税の利用率は14.9%にとどまっており、「ふるさと納税の意義が分からない」「応援したいと思える地域が特にない」といった声もあります。
そこで、「自分の納税先を、自分の意思で選ぶ」というふるさと納税の本来の目的を達成するために立ち上げられた事業が「ふるさと納税forGood!」です。ふるさと納税にクラウドファンディングの仕組みを活用し、地域が解決したい課題や税金の使途を明確にすることで、地域への共感を得ながら寄付や認知を拡大し、関係人口創出へと寄与しています。ふるさと納税forGoodは、自治体や地域の起業家、生産者と協働しながら共感による地方創生を実現しています。
若年妊娠による貧困 LUNA sanitary products
若年妊娠により教育機会が奪われ、貧困状態に陥るシングルマザーが多いタンザニアで生理用ナプキンを製造販売し、雇用創出する事業LUNA sanitary productsは、UNFPA(国連人口基金)とプロジェクト連携し、生理用ナプキンといったヘルスケア商品の配布や性教育プログラムを届けています。
起業家育成 ゼロイチ
学生といった若い世代のアントレプレナーシップをもつ人材を支援・育成し、社会起業家の層を拡大することを目的として立ち上がったのが、学生向け社会起業プログラム「ゼロイチ」です。経済産業省「令和4年度 海外における起業家等育成 プログラムの実施・拠点の創設事業」の一部を受託し、社会起業家育成に取り組んできたボーダレス・ジャパンと「社会の無関心の打破」を理念として400テーマ以上にわたる社会問題を扱い事業展開してきたリディラバが連携し、アントレプレナーシップをもつ人材の育成に取り組んでいます。
起業支援 JICA 海外協⼒隊への スタートアップ起業⽀援
日本の政府開発援助(ODA)の実施機関として、これまで5万5千人以上を開発途上国に派遣してきたJICAと社会起業家育成に取り組んできたボーダレス・ジャパンが協働し、起業支援を行います。海外協力隊経験者が帰国後に協力隊での経験を活かし、起業することで日本の地域課題や海外の社会問題の解決を促進することを目的として2024年より開始される予定です。
コレクティブインパクトを生み出す方法
近年SDGsの影響もあり、社会問題解決に取り組む組織も増加してきました。社会問題に取り組むには、取り組みたい課題や必要なリソースを整理することが重要です。そこで、社会問題に取り組み、コレクティブインパクトを生み出すための具体的な方法をご紹介します。
1.解決したい社会問題の現状を明確にする
社会問題に取り組むときには、誰の・どんな状況をどう変えたいのかを言語化したソーシャルコンセプトを作ることが重要です。ソーシャルコンセプトを通して、社会問題の現状と原因、問題が解決された理想の姿を具体的にイメージします。
2.自分の強みを弱みを整理し、協働する組織や人材を探す
社会問題に取り組むとき、自分はどういった領域なら力を発揮できるのか、またどういった領域はカバーしきれないのかを明確にしましょう。自分の強みと弱みを把握できたら、弱い部分を補強できる組織や人材を探します。
例えば、先に紹介した「小さな心ダイアリー」の場合、「子どもたちのリアルな姿は理解できるけれども、心理学といった専門的な知識には長けていない」という2社の課題感から、専門家が参画することになり、より精度の高い商品開発を実現しています。
3.資金提供元を決める
プロジェクトを持続する上で最も重要な要素の一つが資金面です。自前での運営だけでなく、補助金の活用やクラウドファンディングを通して認知を拡大しながら資金調達することもできます。
4.プロジェクトを発足し、実行する
コレクティブインパクトを生み出すリソースが揃ったら実行に移します。実行に移す際には、参加者全員に対する問題への共通の理解やビジョンの共有を図ります。その後、定期的なコミュニケーションを取りながら評価システムに基づき改善を繰り返し、プロジェクトを推進していきます。
コレクティブインパクトをボーダレスと共に生み出す
一つでも多くの社会問題を解決していくためには、さまざまな領域の人が強みを発揮しコレクティブインパクトを生み出すことが重要です。
これまで世界13ヵ国51事業を立ち上げてきたボーダレス・カンパニオの社会問題をビジネスで解決するノウハウを活かし、企業様向けソーシャルビジネス立ち上げサポートやソーシャルビジネスの現場で次世代リーダーを育成する出向プログラムなど、さまざまな取り組みを行ってきました。
セブン&アイグループ様にて実施した企業向けソーシャルビジネス立ち上げプログラムの紹介記事
次世代リーダー育成出向プログラムHOPE
ボーダレスは、これからも多くの方々と協働しながら、社会問題に取り組んでいきたいと思っています。より詳細な内容につきましては、弊社お問い合わせフォームよりご連絡ください。
また、ボーダレスでは、法人・自治体・教育機関の皆様と共により良い社会を作っていくためのご提案を行っています。
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ボーダレス・カンパニオでは、様々な社会問題の解決に向けた「第一歩」になるようなステップを準備しています。
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ボーダレス・カンパニオでは、社会問題をビジネスで解決したい人を募集しています。難民の問題や貧困、差別偏見、環境問題など、あなたが解決したい問題を解決する事業をビジネスで解決していきませんか?
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参考
スタンフォードソーシャルイノベーションレビュー―コレクティブインパクト
文部科学省―令和4年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果及びこれを踏まえた緊急対策等について(通知)